需要と供給

仕事がら、文具やノート、デザイン用品には興味が尽きない。
しかし同時に、ひとつの悩みがある。
——なぜか、自分の琴線に触れたものに限って、廃版の憂き目に遭うことが多いのだ。


二年ほど前、ITOYA GINZAで偶然目にした「Brepols」というベルギーの出版社が発売しているA4ノートに心を奪われた。
漆黒の外観に、小口側天地角落としのソリッドなフォルム。中を開けば、なんと「4.5mm巾」のネイビー罫線が、クリーム色の用紙の上にびっしりと走っている。
普段6mmや7mm罫に見慣れていた自分には、その密度感は衝撃的だった。

価格はノートとしては高価な3,000円弱。
だが一期一会とばかりに購入し、使ってみたところ——
この狭い罫巾が自分の筆記態度と絶妙に噛み合うことを知る。しかも全160頁。一日一見開きで使えば、余白を含めてちょうど二ヶ月分の情報が収まる。効率もよく、気持ちのいい使用感だった。


ほどなくして4.5mm罫廃版確定という悲報が入る。東京中思いつく限りの文具屋に問い合わせてひとまず現状残っている4.5mm本を7冊ほど購入、さらに本国のWEBサイトから問い合わせをし、取り寄せようとしたものの本国に在庫無し。さらには今後の生産予定も無し。との通知を受ける。暗礁にのりあげた。

思い返せばこのように気に入った道具や画材が次々と買いづらくなったり廃版になったりといった経験は、過去に幾度も経験している。

印刷に関わる人はよく経験することだと思うけど、気に入った紙などがすぐに廃版になったり、(DTP化の促進などによって)かつては安価に依頼可能だった2色機が希少になって高コストになったり、思えば私の世代は、コンピュータによるグラフィックデザインの黎明期とほぼ同期している。結果として、流動性の高い環境事象に振り回された世代だった。

コンピュータ周りで言えば、アプリケーションやフォントの仕様の変遷によって振り回される制作がずっとデフォルトである。せめて、手元に持つ道具は信頼できるものを常時確保したいと思うのは贅沢な希望ではないはずです。


ちなみに一年ほど前、事務所でディバイダが見当たらなかったので当時のアシスタントに何処にあるのか聴いてみたところ「ディバイダ?」と不思議な面持ちをされたため、自分で購入することにして文具屋に行ってみたのだが、さらにそこの店員からも「ディバイダ?」とあたかもそれが架空の物体であるかのような聞き返し方をされた。「なんかコンパスみたいなもので、しかし両方尖ってる奴であります」と説明したものの(おそらく確認せぬまま)「あいにく在庫がないようです」と返された。

まるで聞いた自分が何か悪いことでもしてしまったかのような気分になった。


こういった憂いは今後少なくあれと思いながら、こないだ撮影の小道具として購入した一ツ橋・ラッキー・グロリアノートというリングノートをいたく気に入った。今、これを自分のあれこれ帳として使っているのだが、なんとなくこのノートも危険な香りが漂っている。ちなみに先日これを購入したショップを覗いてみたらすでに棚から無くなっていた。一ツ橋ノートの今後の発展と商品の継続を心より祈っております。