蜜柑

2歳になる息子がみかんを見つめて、両手で叩いている。

彼はいつも、何かに触れようと手を伸ばしては、叩いたり、撫でたりする。そして掴んだ瞬間、口に運び、舐める。入るなら、噛む。大きさ・質感・味・温度、そのいずれを確かめているのか、それとも食物か否かを見極める術なのかはわからないが、とにかく彼は、手にしたものは口に運べばなんとかなると思っているらしい。椅子のように明らかに口に入らない大きさのものに対しても、自らの口を近づけ、少なくとも噛もうとは試みる。

件のテーブル上の叩かれみかんは、五分と持たず、彼の一連の弄びによって床に転がり落ちた。息子はそれを目で追い、じっと見つめるが、困った様子は見せない。そして視線はおもむろに宙に向き、次なる対象を探しはじめる。試しに二個のみかんを置いてみると、複数の対象に一瞬とまどいを見せたのち、彼なりの判断によってそのうちのひとつを叩きはじめ、その衝撃とぶつかりによって、もう一方が床に転がり落ちた。だが彼は落下みかんに頓着することなく、テーブル上の叩かれみかんを口に運ぶ。ふと思い、二個のみかんと一個のりんごを置いてみた。すると再び戸惑った表情になり今度は何かを考えている、新しい興味をもったのか、りんごを撫で始めた。その動作は束の間、またすぐに両手でそれを叩きはじめ、ひとしきりののち、そのりんごを口に運ぶ。